手の込んだつぶつぶなペイント「リシュタン陶器」──[ウズベキスタン – 工芸]

ウズベキスタン・サマルカンド周辺※で見られる装飾陶器は、実用と鑑賞のあいだに位置する現代工芸の一例です。なかでも紹介するこの器は、色彩豊かな点描技法を通じて、手仕事の温かみと地域文化の重層性を感じさせる一品です。

◉ デザインや文化について

この器の装飾デザインには、植物・花や幾何学模様といった自然と秩序のモチーフが取り入れられており、サマルカンドに伝わる装飾文化の精神を今に伝えています。黄色や赤など、中央アジアらしい強い色彩は、豊穣や生命力の象徴とされ、器の丸みとともに「大地の恵みを受け取る器」としての意味を帯びている可能性があります。

特筆すべきは、盛り上がった点描による装飾(ドットペインティング)です。これは、サマルカンドの陶器ではあまり一般的でない技法ですが、近年は土産物や装飾陶器として復興されつつあります。非常に細かな手仕事で、点の大きさや配置、色彩のリズム感が職人の美的感性と技術の高さを物語っています。

サマルカンドはかつてティムール帝国の都であり、イスラーム建築と美術の宝庫です。その影響は、青を基調とした建築タイルや幾何学・植物文様にも現れており、この器の装飾構成にも通じています。伝統的なイスラーム美術を下敷きにしながら、現代的な装飾アレンジを加えることで、新たな工芸の展開が見られます。

※なお、サマルカンドの最大の市場『ジョブバザール』で買いましたが、リシュタン含むフェルガナ盆地はタシケントからのほうが近いです。ただし、タシケントの市場各所では、この陶器の模様を見かけることはありませんでした。もしかすると、ドットではない通常のペインティングによる容器づくりが主流なのかもしれないです。

◉ 機能や実用性について

器の機能性については、左右対称の形状と滑らかな口縁から、成形技術の精度が高いことが分かります。一方で、写真から見る限り、塗料の一部に剥がれやムラが見られ、職人ごとの技術の差や手作業ゆえの個体差も存在します。

素材はやや厚手で、保温性や耐久性に優れた日用品に近い仕様です。内側には滑らかな釉薬が施されており、飲み物や汁物にも適応可能です。ただし、外側の点描装飾は使用中に傷つきやすく、水洗いには注意が必要です。そのため、完全な実用器というよりは、半装飾的な用途に適しているといえます。

サイズ感としては「お猪口と味噌汁椀の中間」といった具合で、手に収まりやすく、重さのバランスも良好です。ただし、外装の点描が手に引っかかる恐れもあり、日常使いの際には注意が必要です。見た目重視のデザインと、実用性のバランスが評価の鍵となるでしょう。

◉ 市場や流通性

経済性の観点では、観光地であるサマルカンドでの販売価格が50,000〜80,000スム(約550〜880円)であることを考慮すると、装飾の手間や完成度、文化的背景を踏まえてもコストパフォーマンスは高い部類に入ります。

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