工芸品を「毎日使うもの」に取り入れてみませんか~「コウノトリハサミ」を買って。

2025年のゴールデンウィークにウズベキスタンを訪れました。その際、工芸の街として知られるブハラへ足を運ぶことは叶いませんでしたが、首都タシケントにて、コウノトリ型の小さなハサミを購入しました。

金属製で繊細な装飾が施されたこのハサミは、ブハラの伝統工芸に属する一品です。

購入したのは、タシケントにある工芸品が集まる売り場群のひとつでした。「こんな場所に?」と思うような場所でしたが、観光客の姿も少なからず見られ、今後さらに知名度が上がっていくかもしれないと感じました。

価格は170,000soʻm(日本円でおよそ1,900円ほど)。決して高価ではありませんが、そこには職人の技と文化の深みがしっかりと込められていました。価格と精巧さ、そして生産地との物理的距離を考えると、コストと価値のバランスは明らかに「割に合っていない」と言えるほどです。

そしてこのハサミ、実はまつげを切るために使っています。以前は100円ショップで買ったプラスチック製のハサミを使っていましたが、それをこの工芸品に置き換えてみました。

なぜそんなことをしたのかというと、日常的に使うものこそ「大切なもの」に替えてみたかったからです。

毎日の中で無意識に繰り返している小さな行為に、意図して特別な道具を組み込んでみる。そうすることで、旅の記憶がふと蘇ってくる瞬間が生まれます。ただの思い出として棚にしまっておくのではなく、「単純接触効果」を自分自身に応用して、記憶と感情を再び日々の中に呼び戻す。そんな手法が、自分にとって心地よい高揚感につながっているのです。

コウノトリのハサミは、切れ味が良いだけでなく、使うたびにどこか所作を丁寧にしてくれる感覚があります。装飾の重みや柄の繊細さが、指先の動きをほんの一瞬、意識的にしてくれます。その瞬間が、いつもの日常をほんの少しだけ「特別な1日」へと変えてくれるのです。

機能性や利便性を追求した道具があふれる今の時代だからこそ、あえて資産流通性の低い「工芸品」を手元に置いてみたいと思いました。簡単に売れない・広がらないからこそ、物との距離が近づき、そこに「所有する」という実感が生まれます。そしてその実感は、道具とともに「時間を育てる」という体験につながっていきます。

旅先での衝動買いを、ただの思い出にとどめておくのはもったいないことです。

日常の中に工芸を呼び戻して、過去の自分と今の自分を、道具を通じてつなげてみてはいかがでしょうか。

まずは、毎日使っているものをひとつだけ、「本当に使いたいもの」に選び直すことから始めてみてください。

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