◉ 1. ウズベキスタン全体の方針と背景
ウズベキスタンは、シルクロードの中心として育まれた伝統工芸を、現代においても「文化遺産」として再評価し、国家政策として保護・発展させる動きを強めています。特に2016年以降※、文化観光・創造産業を経済発展の柱とし、国内外への発信を強化しています。
※2016年以降、ウズベキスタン政府は「新ウズベキスタン開発戦略(New Uzbekistan Development Strategy)」を策定し、文化観光や創造産業を経済発展の柱として位置づけています。この戦略の下で、観光産業の活性化や伝統工芸の振興が進められています。uz.emb-japan.go.jp
◉ 2. 代表的な施設の具体的な取り組み
1. THE Eternal City(サマルカンド)
https://www.silkroad-samarkand.com/resort/eternal-city
支援団体・運営主体: 「Silk Road Samarkand」※観光複合施設内の一部として設計・運営されています。
※「Silk Road Samarkand」は、ウズベキスタン政府と民間投資家の協力による国家プロジェクトとして設計・運営されています。
設立年:2022年8月23日。
目的・背景: ウズベキスタンの多様な民族文化、工芸、建築、食文化を一体的に体験できる「生きた都市博物館」として設計されました。
主な活動:
- 50以上の工房やギャラリーを備え、木工、陶芸、紙漉き、刺繍、宝飾などの伝統工芸を実演・体験可能。
- 著名な芸術家や職人によるワークショップやマスタークラスを開催。
- 観光と文化遺産の融合を通じて、地域経済の活性化と国際的な文化発信を目指しています。
2. Meros paper mill(コニギル村)
https://sg.news.yahoo.com/uzbek-entrepreneur-tapping-papers-age-old-power-031056696.html
支援団体・運営主体: ムフタロフ兄弟(Zarif & Islam Mukhtarov)によって設立・運営。
設立年: 1996年に構想され、2001年に工房として開業。
設立目的: ユネスコの伝統工芸振興活動に触発され、失われたサマルカンドの紙漉き技術(桑の樹皮を使用)を復元・継承することを目的としています。
主な活動:
- 完全手作業による紙漉き工程を見学・体験できる観光施設として運営。
- 製品は書道家や修復家にも利用される高品質な紙として評価されています。
- 工房内には茶屋や水車があり、伝統的な雰囲気を楽しめます。
3. Happy Bird Art Gallery(サマルカンド)
支援団体:
- 中央アジア工芸支援協会(CACSA):
- 設立年: 2000年
- 設立目的: 中央アジア地域の職人や工芸団体を支援し、伝統工芸の発展を促進すること。
- 活動内容: 地域全体の工芸振興を目的とし、職人のネットワーク構築や国際的な展示会の開催などを行っています。House of Councillors
- ウズベキスタン共和国職人協会「Hunarmand」:
- 設立年: 1997年
- 設立目的: ウズベキスタン国内の職人や工芸家を支援し、伝統工芸の保存・発展を図ること。
- 活動内容: 国内の職人の社会的保護、展示会やフェスティバルの開催、教育・研修プログラムの実施などを行っています。
- 両団体は、伝統工芸の振興という共通の目的を持ちつつ、CACSAは地域全体のネットワーク構築に重点を置き、Hunarmandは国内の職人支援に特化しています。
設立年: 2005年。
設立目的: ウズベクの民芸・工芸の振興と作家支援を主眼とし、文化的価値やオーセンティシティ(本物性)の維持・発信を重視しています。
主な活動:
- 地元作家の作品展示・販売、マスタークラスの開催。
- 海外展覧会の企画・参加を通じて国際的な文化交流を推進。
- 訪問者には伝統的なコーヒーを提供し、温かみのある交流の場を提供しています。
◉ 3. 国家レベルの支援政策
- 法的支援・税制優遇
職人への所得税免除、輸出関税撤廃。2024年制定の「創造経済法」により工芸分野への国家支援が制度化。 - 職人団体と国際連携
「Hunarmand」協会が中心となり、職人の育成と海外連携(CACSAなど)を推進。 - 教育・後継者育成
ユネスコなどと連携し、全国で工芸技術+起業スキルを学ぶ研修を実施。女性・若者の雇用創出にも貢献。 - 観光資源化
工芸を体験できる観光施設の整備(例:Meros紙工房)を通じて、観光と文化の融合を図り、地域活性化にもつなげている。
◉ 4. まとめ
これらの取り組みは、単なる工芸品販売の枠を超え、文化の保存・継承・体験・国際発信を包括する国家的プロジェクトです。訪問された施設が「工芸を広げようとしている」と感じられたのは、まさにこうした方針と現場の実践が一致しているためと言えます。